遺伝性網脈絡膜疾患

網膜脈絡膜ジストロフィ dystrophy( 網膜色素変性と類縁疾患 pigmentary degenerations and allied diseases

§. 概 念

原発性網膜変性,すなわちジストロフィ retinal dystrophyは遺伝子異常により組織代謝が正常にならず,両眼性・進行性に緩やかに破壊される病態である.ほとんどが網膜視細胞および網膜色素上皮細胞を責任病巣とすることで,網膜色素変性の類縁疾患として扱う.すなわち,
網膜色素変性症のカテゴリーとは遺伝性網脈絡膜変性(あるいは,網脈絡膜ジストロフィ)”として,杆体の障害により夜盲・視野狭窄があるもの,錐体の障害により視力障害・眼振があるもの,両者の混在するもの,と考えることができる.

§. 病 型

  1. 遺伝性網膜変性

    網膜色素変性(杆体-錐体ジストロフィ),錐体(-杆体)ジストロフィ,白点状網膜症,色素性傍静脈網脈絡膜萎縮,小口病,白点状眼底,先天停在性夜盲,黄色斑眼底,若年性網膜分離症,etc.

    網膜色素変性 と名のつくもの

    (定型)網膜色素変性,無色素性網膜色素変性,区画型網膜色素変性,()中心型網膜色素変性,片眼性網膜色素変性,etc.

  2. 遺伝性網脈絡膜変性 網脈絡膜ジストロフィ
      図 補 斑紋
    1. 斑状網膜() 斑状網膜症候群
      いわゆる斑紋状眼底 flecked retina syndrome(Krill)
      • 白点状眼底 fundus albipunctatus(眼底白点症)
         下記
      • 黄色斑眼底 fundus flavimaculatus(Stargardt):
         下記
      • 家族性ドルーゼン familial drusen
        網膜色素上皮Bruch膜のヒアリン変性が起こる.進行状況により種々の程度の視力低下を示す.
        応加齢変化とは趣を異にするが,脈絡膜新生血管を生じることがある.近年では dominantly inherited basal laminar drusenと呼ばれる.
        EFEMP1;常染色体優性遺伝.
      • 神取型斑紋眼底 fleck retina of Kandori
        不規則な斑紋を認める,夜盲症.視力の問題はない.
      • 良性家族性斑紋眼底
    2. 白点状網膜症 retinitis punctata albescens(Mooren)

      網膜色素上皮レベルの無数の小白点が特徴であるが,網膜色素変性の亜型のようなもの.すなわち,夜盲,視野異常共に進行性で,結果的に特有の色素沈着が完成したりして網膜色素変性の臨床像に矛盾しない.
      白点状眼底と違い,暗順応後のERG波形の変化がない.

      責任遺伝子;RLBP1(retinaldehyde binding protein 1遺伝子;15q26);常染色体劣性

    3. Leber先天盲 Leber's congenital amaurosis congenital tapetoretinal dysplasia

      臨床的な特徴として,生後早期からの高度な視機能障害,感覚性眼振,対光反射の欠如もしくは高度障害(黒内障瞳孔)ERGの異常(消失型もしくは著しい減弱)が挙げられる.
      強い視力障害は外節やシナプスが形成されない異形成視細胞に因る.生後1か月くらいの発症では眼振,指眼現象(digitoocular sign),夜盲症状(暗いところで泣き出す,のだそうだ)が顕著である.12歳の発症では,羞明が前面にある病型と夜盲が前面にある病型が区別できるとされる.前者は 錐体-杆体ジストロフィ型,後者は 杆体-錐体ジストロフィ型を示す.

      複数の原因遺伝子が確認されているが,眼底所見や進行速度は症例によりさまざまで遺伝子型によって表現型(臨床像)が違うようである.常染色体劣性遺伝が大部分とのこと.神経線維層以外の各層で菲薄化がみられる.
      杆体錐体双方の機能喪失のほか,聴覚障害や(精神的身体的)発達遅延など全身症状を伴うことで,網膜色素変性症とは分けて考えることを指摘する研究者が多い.

      digitoocular signLeberによる最初の記載(1877)が本症についてであり,oculodigital phenomenon との命名(1939)Franceschettiによる.   こちら

      遺伝子変異    文末

    4. ミトコンドリア網膜症   こちら

      KearnsSayre 症候群網脈絡膜萎縮網膜色素変性
      ・筋緊張性ジストロフィ網状ジストロフィ

    5. クリスタリン網膜症   こちら

      網膜の後極部~広範に閃輝性小斑の結晶を生じる.

    6. いわゆる杆体ジストロフィ rod dystrophy
  1. 遺伝性黄斑変性 黄斑ジストロフィ macular dystrophy

    黄斑機能が両眼性・進行性に低下する病態を総称する.初発部位や主要病変部位による分類で評価するのが一般的である.

    A.感覚網膜

    1. 先天網膜分離症・黄斑分離症 retinoschisis    硝子体網膜ジストロフィ のページで

      Müller細胞に欠陥がある.
      foveal (retinoⲻ)schisis:中心窩感覚網膜の構造破壊
      Xlinked juvenile retinoschisis:内境界膜から神経線維層で,層間分離が起こる.

      責任遺伝子;RS1(retinoschisin 1)遺伝子;Xp22.13

    B.視細胞及び色素上皮

    1. Stargardt(黄色斑眼底群 fundus flavimaculatus)   眼底所見は こちら

      黄斑を中心として色素上皮が変性消失し視細胞が崩壊する.通常小児期に両眼性の視力低下で発症する,羞明・色覚異常を伴い,若年性黄斑変性(黄斑ジストロフィ)というときの代表疾患である.眼底全体では色素上皮レベルのリポフスチン沈着の黄色斑(フレック:flecks)を認める.これにより蛍光眼底造影写真において背景蛍光が暗くなり(dark choroidsilent choroid:まれに認められない本症もある),後極の萎縮巣は組織染を示す.自発蛍光眼底像ではフレックが強く蛍光を発し,萎縮巣は低蛍光に観察される.
      進行した黄斑病巣(bull's eye)は金属粉様の反射を呈し,beatenmetal (beatenbronze)と形容される.なお,進行例であっても乳頭周囲では組織構造・機能が保存される,とのことである(peripapillary sparing)
      OCTでは黄斑網膜の ellipsoid zone消失と菲薄化がみられる.進行すると神経上皮層は消失し,Bruch膜のみ残存する.

      ERGは準正常であることが可成りの鑑別点となる(進行度に依るが).EOG・L/D比は中等度の低下がある(黄色斑の広がりに依るらしい.診断的価値はないとのこと).暗順応の遅延もあり,進行すれば視野異常や夜盲がみられる.

      原因のひとつに,レチノールの再生過程の不具合・円板膜代謝障害が考えられている.
      リポフスチンの主成分となるA2E蓄積が色素上皮障害をきたす.    A2Eは こちら

      病型眼底所見ERGEOG色覚
      黄斑萎縮巣のみ正常範囲正常範囲赤緑異常
      黄斑萎縮巣とその周囲の黄色斑(典型的なStargartd病)正常範囲正常範囲赤緑異常
      黄斑萎縮巣と,広範に散在する黄色斑cone系の減弱赤緑異常
      広範に散在する黄色斑(典型的な黄色斑眼底)cone/rod とも
      減弱ないし消失
      赤緑異常+青黄異常

      責任遺伝子;
       ABCA4(網膜特異的ATP-binding cassette transporter遺伝子;1p22):別名 STGD1(常染色体劣性遺伝:通常型)
       ELOVL4(ELOVL fatty acid elongase 4遺伝子;6q14.1):別名 STGD3(常染色体優性遺伝:軽症型)
       PROM1(4p15.32):別名 STGD4,
       PRPH2(6p21.1):STGDだけでなく,多様な表現型(所見,疾患名を示す

    2. 錐体ジストロフィ/錐体杆体ジストロフィ cone(rod)dystrophy

      錐体ERG(30Hzⲻflicker,赤色閃光刺激,明順応下色光ERG,など)の高度異常,黄斑局所ERGの減弱消失などの機能障害から診断される概念である.端的には全視野刺激ERGにおいて,正常であれば 黄斑ジストロフィ,明所視の反応低下は 錐体ジストロフィ,明所視・暗所視の反応低下は 錐体杆体ジストロフィとなる.準正常の暗順応(次曲線が認められる)を示す.OCTではellipsoid zoneが不明瞭あるいは消失する.

      錐体障害が先行することで羞明は特徴的な症状とされ,ほかに進行性の視力低下(中心暗点)や昼盲,後天性色覚障害を,経過により夜盲や周辺視野欠損などを引き起こす.要するに定型網膜色素変性とは逆のパターンであるが,杆体反応よりも錐体反応のほうがより高度に障害される状態である.これにより錐体ERGの減衰~消失に加え一次暗順応閾値の上昇をきたす.また昼盲が前面・先行する.

      bull's eyeを示す網膜色素変性のバリエーションとして解釈するが,網膜色素上皮変性はわずかであり,眼底が正常色調を示す症例も指摘されている.眼底所見の多様性から本症を症候群と解説する研究者が多い.

      常染色体劣性(約3/4),優性(約1/5),まれにX連鎖性の遺伝様式がある.

      責任遺伝子;GUCY2D,GUCA1A,CRX,など(以上,優性),ABCA4,ADAM9,PROM1,RPGR1P,KCNV2,など(以上,劣性),RPGR(X連鎖性)など

    3. occult macular dystrophy宅病図 01 オカルト

      眼底所見では形態変化がとらえられない進行性の視力障害.全視野ERGは正常でありながら黄斑部局所ERGのみ反応低下を示す.OCTでは視細胞外節構造の描出が不良(ellipsoid zoneの不明瞭・不連続, interdigitation zoneの消失,等)で高齢では視細胞部(外顆粒層)の菲薄化が観察される.
      いわゆる 黄斑ジストロフィは錐体・杆体障害であること,錐体ジストロフィは網膜全体の錐体障害ということで,黄斑の錐体のみ選択的に障害され杆体機能は障害されにくい本症は特異的,とされる.
      弱視あるいは心因性視覚障害との鑑別が重要.

      責任遺伝子;RP1L1(retinitis pigmentosa 1 like 1)遺伝子;8p 23.2 による常染色体優性遺伝とされる.

      occult maculopathyオカルト黄斑症遺伝学的病態とは異なりながら類似する臨床所見を示す.

    C.色素上皮

    1. 卵黄状黄斑ジストロフィ vitelliform macular dystrophy(卵黄様黄斑変性Best病   眼底所見は こちら

      黄斑部・網膜下に卵黄色の物質が沈着する.様相は,前卵黄(previtelliform) → 卵黄(vitelliform)期  吸収(いり卵 scramble egg)期  偽蓄膿(pseudohypopyon)期  瘢痕(萎縮(atrophic))期,の経過をたどる.症例ごとに差はあるものの卵黄様所見は思春期までに出現するとされ,視力低下を自覚する.年数と共に溶解し網膜色素上皮を含めた瘢痕萎縮の所見となる.通常,両眼性であるが片眼性の症例もある.ある時期の断片的な所見では診断が難しかったりする.
      組織学的にはリポフスチン(視細胞外節由来)様物質の色素上皮細胞内沈着は眼底広範囲に及ぶことがわかっている.卵黄様沈着物質(視細胞と色素上皮との間(網膜下)だとか)には強い自発蛍光が認められる.FAでは沈着物質は蛍光ブロックを示し,萎縮部では window decect の所見となる.
      全視野ERGはほぼ正常で,EOG・L/D比の異常に特徴がある.色覚障害は比較的軽度,とのことである.

      責任遺伝子;BEST1(bestrophin 1遺伝子;11q12.3),別名VMD2.常染色体優性遺伝様式.保因者でもL/D異常を示す,とのことである.

      bestrophinopathyBEST1遺伝子異常の疾患;卵黄様黄斑ジストロフィのほか,常染色体劣性ベストロフィノパシー(錐体杆体ジストロフィと重なる,とか),常染色体優性硝子体網脈絡膜症
      ▤ 成人型卵黄様黄斑ジストロフィ正常EOG .だいたい片眼性で,加齢性病変と見做す.遺伝性はないとされるが,PRPH2遺伝子によりパターンジストロフィのカテゴリーとなる.

    2. パターンジストロフィ (pattern dystrophy of the retinal pigment epithelium)

      後極部での色素集積.その外観から
      ①蝶形ジストロフィ (Deutman),②網状ジストロフィ (Sjögren),③顆粒状眼底,などと表現される.
      EOG・L/D比は中等度の低下があり,色素上皮の病変を支持する.

      責任遺伝子;PRPH2(peripherin 2)遺伝子;6p21.1 ,別名RDS

    DBruch膜   こちら

    ・網膜色素線条
    ・高度近視症候群
    ・偽炎性黄斑ジストロフィ

    E.脈絡膜   こちら

    1. 中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィ (central areolar choroidal dystrophy)   中心性輪紋状脈絡膜萎縮 のページで

      脈絡毛細管板の萎縮.
      脈絡膜ジストロフィのカテゴリーとされるが,次の責任遺伝子は脈絡膜には無いとのことで,原発巣(次病変)が議論になっている.

      責任遺伝子;PRPH2(peripherin 2)遺伝子;6p21.1 ,別名RDS

    2. そのほか

      びまん性脈絡膜ジストロフィ,choroideremia,クリスタリン網膜症,gyrate atrophy ・・・・・
      実際の病理はだいたい色素上皮細胞の異常に始まり脈絡毛細血管板と共に変性・消失というパターンである.しかし,たとえば初発部位に特徴があるが,どうしてだろう

    F.そのほか

    1. North Carolina macular dystrophy

      chromosome 6 (MCDR1 locus), as well as in a region of chromosome 5 (MCDR3 locus).常染色体優性

    2. もうひとつの若年性黄斑ジストロフィ
      先天性乏毛症に伴う.

      責任遺伝子;CDH3

    3. 色覚・全色盲   色覚異常 のページで

      *杆体色覚:常染色体劣性.錐体の機能欠如

      *S錐体色覚:X連鎖劣性.M錐体・L錐体の機能欠如

  2. 夜盲って ? ?
    暗所視光覚異常のことで,臨床上問題になるのは多くが遺伝性眼底疾患である.
    およそ杆体機能障害を表わし,従って本質的には先天夜盲であり,停在性と進行性に分ける.杆体機能欠如状態は,視野検査の上では内部イソプタの狭窄として表われる.

    1. 停在性夜盲(広義CSNB
      夜盲症状は生下時よりある.網膜内層障害神経情報のプロセシング障害に因る(双極細胞疾患性夜盲)
      図 02 停在夜盲 ERGは negativeⲻb波を示し,EOGではほぼ正常の lightriseが期待される.

      1. 先天停在性夜盲 congenital stationary night blindness(狭義CSNB):

        眼底には特徴的な所見はないが,しばしば低視力を示す.これにより原因不明の視力障害が主訴であることが多い.視細胞から双極細胞への信号伝達に欠陥があり,ロドプシンは健常とされる.
        診断は(Ganzfeld)ERGに拠り,negative(SchubertBornschein) が特徴となる.
        (完全型と不完全型で微妙に違うらしい.)  停在夜盲網膜電図

        ・完全型(CSNB1):杆体系・錐体系ともにON型双極細胞の機能障害,よって錐体閾値(次暗順応曲線)のみ(杆体機能欠損状態).杆体系ERGの消失,錐体系はほぼ残存する.フラッシュ最大応答は律動様小波の消失した陰性b波を示す.カラーフラッシュによるとS-cone ERG b波の欠落がある.
         X染色体劣性(NYX遺伝子)/常染色体劣性の遺伝形式.
        ・不全型(CSNB2):ON型・OFF型双極細胞の機能不全と中枢杆体視路の異常.残存する杆体機能があり,夜盲は軽度か無自覚だったりする.(十分な暗順応下での)錐体系ERGが強く減弱し,明順応経過中では振幅の強い増幅現象(正常眼では160%,本疾患では300%)を特徴とする.錐体機能(視力・視野など)の反映ではなく,杆体(あるいは脳層部の)による干渉・振幅抑制と考えられている.フラッシュ最大応答は律動様小波の残存する陰性b波を示す.
         X染色体劣性の遺伝形式(責任遺伝子はCACNA1Fcalcium voltagegated channel subunit alpha1 F遺伝子;Xp11.23,NYXnyctalopin遺伝子;Xp11.4)により,男児で視力不良の場合,弱視とされ易い.眼白子症の部が本症である,との解釈がある.

        ▤ ON型双極細胞:代表的な原因遺伝子はON型双極細胞の局在を示す.ON型経路の障害があっても錐体双極細胞・OFF型経路により明所視は維持される.

      2. 小口病 Oguchi disease:     眼底写真 雑誌記事

        ロドプシンは常に明順応状態にあり,通常の暗順応に追従しない(結果的に,回復遅延杆体機能不全).
        通常,視力障害・視野障害はない.眼底所見は水尾-中村現象として有名.
        ERGnegativeb型で律動様小波は存在する.数時間の暗順応で光覚・ERG振幅が回復する(が,フラッシュ発で振幅は消え去る,とのことである).

        責任遺伝子;SAG(ロドプシンキナーゼ遺伝子;2q37.1)GRK1(アレスチン遺伝子;13q34),により常染色体劣性遺伝.
        病理組織学的には,視細胞と色素上皮層のあいだに異常物質が蓄積する ということだったが,どうやら網膜内層 Müller細胞にも問題があるらしい.
        OCTでは視細胞外節部の所見が注目されている.

      3. 白点状眼底 fundus albipunctatus:  眼底写真(眼底白点症

        視細胞網膜色素上皮レベルに異常なロドプシン蛋白が蓄積する無数の小白点が特徴であるが,長年の経過で変化する.血管の狭細化はない.視力は良好であるが,加齢と共に錐体ジストロフィを合併したりするとこの限りではない.
        ロドプシンの再生遅延,すなわち暗順応回復遅延がある.よって,約2時間の暗順応後には ①自覚症状的に,②ERGの最大振幅,③EOGのlightⲻrise,などが確認される(錐体杆体機能不全).ERG振幅は繰り返すフラッシュにも消え去ることはない,とのことである.

        責任遺伝子;RDH5(retinol dehydrogenase 5;12q13.2),常染色体劣性遺伝

    2. 進行性夜盲
      幼児期あるいはそれ以降(病初期)に夜盲症状が出現,かつ進行性病態である.網膜外層視細胞障害が周辺部から起きることに因る.EOGでは lightⲻrise が期待できない.
      いわゆる網膜色素変性,白点状網膜症が代表病変.そのほか脈絡膜萎縮症候群(コロイデレミア・脳回転状脈絡網膜萎縮,など).

      ▤ 短波長錐体増幅症候群 enhanced Scone syndrome:  眼底・網膜電図
      夜盲の自覚,遠視,黄斑部網膜分離,その外周血管アーケードから中間周辺部では輪状に網膜色素変性様変化が認められる病態.
      準正常消失型ERG.フラッシュERGでは特にa波の潜時が延長し,なだらかな波形となる.そのほか,rod-ERGの消失,30Hz-flickerの消失に対してcone-ERGはfull-field ERGに類似する.視細胞(特に杆体)が異常青錐体に置き換わっているらしい(杆体の錐体化,ハイブリッド化).よって赤色刺激ERGでは振幅が低下し,青色刺激ERGでは振幅が増大する.通常のジストロフィとは反対の機能亢進を示す稀な病態である.

      責任遺伝子は,NR2E3(nuclear receptor subfamily 2 group E member 3遺伝子;15q23) 視細胞特に杆体の発生・分化に,成人ではシグナル機能の維持にかかわるタンパクとのことである. GoldmanⲻFavre syndrome と同一スペクトラムとされる.常染色体劣性.

    3. 後天夜盲   光覚異常は こちら

  3. 続発性網膜色素変性 pseudoretinitis pigmentosa 偽網膜色素変性

    まあ,これはぶどう膜炎,あるいはCAR,網膜抗原の対する自己免疫性炎症,の跡…ということで,片眼性あるいは左右非対称,後天夜盲,減弱ERGにとどまる,視力予後は悪くない,など.
    (び漫性)網脈絡膜萎縮状態みたいな意味合いであるからして,多くは感染性炎症である.即ち,(先天)梅毒性網膜症,風疹網膜症,麻疹網膜症,などごま塩の範疇のようである.
    またサルコイド性ぶどう膜炎が緩慢に経過するようだと,周辺網膜に(部分的)網脈絡膜萎縮の所見を示すようである.この部分だけを見ると色素変性そっくりだったりする.
     CAR がん随伴網膜症 については  こちら

  4. 症候性網膜色素変性

    代謝異常など全身疾患の部として網膜変性が発症するもの.

  5. いわゆる標的黄斑症  bull's eye (ドーナツ型混濁) 図 03 ブル

    黄斑中央に健常の網膜色を残し,それを囲んでドーナツ状の萎縮病巣を示す所見をいう.初期のStargart病,錐体ジストロフィ,部の網膜色素変性症,benign concentric annular macular dystrophy (Deutman)などに見られる. その他,クロロキン網膜症 がある.

    進行した黄斑病巣は,金属粉様や金属薄()膜様の反射を示すことが多い.これらは beaten-metal(beaten-bronze)状とか tapetum様と形容される.

  6. 錐体機能不全は
    杆体色覚,錐体ジストロフィ,occult macular dystrophy

  7. 杆体機能不全は
    網膜色素変性,小口病,白点状眼底,先天停止性夜盲,

  8. 症状でみると……

  9. 他覚的機能検査法〰網膜電図electroretinogram ERG

  10. 治療

    神経細胞や脈絡毛細血管板の萎縮を基調とするものは,有効な手段はない.
    近年,脈絡膜循環改善作用のある緑内障治療用の点眼薬が有望視され,また神経栄養因子硝子体内注入の実用化も期待されている.

  11. 鑑別診断のプロセスの例

    1. 蛍光眼底造影で dark choroid は,
      ある ⇒ Stargardt黄色斑眼底

    2. ない ⇒ photopic ERGは,

      1. 正常 ⇒ EOGは,
         異常 ⇒ 卵黄様黄斑変性
         正常 ⇒ 中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィ

      2. 異常 ⇒ negative波形が,
         ある ⇒ X連鎖網膜分離症
         ない ⇒ scotopic b波は,

        1. 正常 ⇒ 錐体ジストロフィ

        2. 異常 ⇒ 

  12. ということで

    ジストロフィ遺伝性変性とする.よって遺伝性黄斑変性黄斑ジストロフィ,などと読み替える.
    また,黄斑ジストロフィを狭義に使うと錐体ジストロフィの意味だったりするので,ややこしい.

    語源は dus-(δυσ- ) „bad, difficult“trophḗ(τροφή) „nourishment, rearing“,ということでかつては異栄養症の名があった.近代ラテン語の „dys“- も関連があるそうである.

    X連鎖Xlinkedであるが,X染色体とか性染色体と書かれることの方が多いかも.
    般に 劣性遺伝形式 のようだが,なぜか性染色体劣性と,劣性は略されなかったりする.

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§Leber先天性黒内障の遺伝的異質性
名称原因遺伝子
<座>
 タンパク 機能 その他
 LCA1GUCY2D
<17p13.1>
retinal guanylate cyclase 2D光シグナル伝達
 LCA2RPE65
<1p31.3>
retinoid isomerohydrolaseレチノイドサイクル
 LCA3SPATA7
<14q31.3>
spermatogenesis associated 7視細胞線毛の輸送
 LCA4AIPL1
<17p13.2>
arylhydrocarbon-interacting protein-like-1光伝達
 LCA5LCA5
<6q14.1>
lebercilin視細胞線毛の輸送
 LCA6RPGRIP1
<14q11.2>
retinitis pigmentosa GTPase regulator-interacting protein 1視細胞線毛の輸送
 LCA7CRX
<19q13.33>
cone-rod homeobox-containing gene視細胞の形態形成
 LCA8CRB1
<1q31.3>
crumbs cell polarity complex component 1視細胞の形態形成
 LCA9NMNAT1
<11p36.22>
nicotinamide nucleotide adenylyltransferase-1補酵素NADの生合成
 LCA10CEP290
<12q21.32>
centrosomal protein視細胞線毛の輸送
 LCA11IMPDH1
<7q32.1>
inosine-5-prime-monophosphate dehydrogenaseグアニン合成
 LCA12RD3
<1q32.3>
retinal degeneration 3タンパク輸送
 LCA13RDH12
<14q24.1>
retinol dehydrogenase レチノイドサイクル
 LCA14LRAT
<4q32.1>
lecithin retinol acyltransferaseレチノイドサイクル
 LCA15TULP1
<6p21.31>
tubby-like protein 1視細胞線毛の輸送
 LCA16KCNJ13
<2q37.1>
inwardly rectifying potassium (Kir) channels,
subfamily J, member 13
光シグナル伝達
 LCA17GDF6
<8q22.1>
growth/differentiation factor-6視細胞の形態形成
 LCA18PRPH2
<6p21.1>
peripherin 2
? LCA19USP45
<6p16.2>
ubiquitin-specific protease 45
◆GUCY2D遺伝子:常染色体優性錐体桿体ジストロフィー
◆CRB1遺伝子:pigmented paravenous chorioretinal atrophy
◆PRPH2遺伝子:常染色体優性網膜色素変性
◆◆https://www.genenames.org/
§. レチノイドサイクル関連酵素
図 補

:光エネルギー

§. 中途失明

◆失明 blindness 
視力喪失は,日常生活・社会生活・学校教育などに大きな制限を受けることはいうまでもない.その程度によって失明という意味が,全盲あるいはそれに準ずる状態医学的な意味合いであったり,失職社会的な意味合いであったりする.
眼底疾患はほとんど全てが,ある程度以上に中心視力の損失をもたらす.現在,失明原因となっている疾患には,緑内障,糖尿病網膜症,網膜色素変性があるが,これらは最終的に視野を失い全盲となりうる疾患である.続くのは加齢黄斑変性であるが,この疾患は中心視力の喪失を招くものの,僅かな例外を除けば周辺視野は保存され得るものである.この点で医学的失明にはあたらないが,仕事を続ける点で大きなハンディとなりうる.社会的な失明と言えるような疾患である.

◆最終的には, 視覚障害への対応 が求められる.


2024